当事者の声

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2020.12.08

難病を持つ人が生きやすい社会は、誰もが生きやすい社会に繋がる

新井 美子
難病カフェ おむすび代表

現在の活動を始めたきっかけ

孤立しがちな難病患者の「居場所」をつくりたい
現在、難病患者たちが集まって交流する「居場所」として「難病カフェ おむすび」を運営しています。私自身、2つの疾患を抱える難病患者です。13歳で自己免疫疾患である全身性エリテマトーデスを発症し、17歳の頃には、特発性大腿骨頭壊死症を併発するようになりました。治療のため服用していたステロイドの副作用によって、大腿骨が壊死したものと考えられています。

診断後、病気とともに生活する中で、とくに就職してからの体調管理は大変でしたね。休日になると寝たきりの状態で体力を回復し、何とかまた仕事に出て行くという日々の繰り返し。一人暮らしで、誰とも話さずにじっと寝ていると「自分はこの先どうなっちゃうのだろう」と、心が追い詰められていくのを感じました。

他の難病患者さんは、仕事をしながら一体どうやって暮らしているのか、教えてほしいと思ったものですが、当時はSNSも普及しておらず、社会からの孤立感が募るばかり。病気の再発など、ちょっと何かが起こっただけで、この生活はガラガラと崩れてしまうという恐怖・不安を常に抱えながらの生活でした。

その頃から、同じ悩みを抱える難病患者たちの「居場所」があればいいなと考えるように。趣味を楽しんだり、ざっくばらんと世間話をしたり、そんな「居場所」があれば、病気を抱えながら生きていく上で、大きな支えとなるに違いない。そう思っていた矢先、九州や茨城で、すでに難病カフェの活動が始まっていることを知りました。

さっそく行ってみると、やはり楽しかったのですね。自分も、こんなふうに難病カフェをやってみたいと夢は膨らんだものの、身体への負担を考えれば、躊躇せざるを得ない状況でした。すると、私のFacebookを見ていた友人が「やってみたいなら、まずやってみようよ」と、協力を申し出てくれたのです。そして2017年2月、「難病カフェ おむすび」の活動を始めることができました。

これまでの活動におけるGood Practice

不安と孤独を抱える難病患者の支えに
難病カフェの参加は事前申込制で、ほぼ毎回満員御礼なんですよ。開催を楽しみにしている方々の声を聞くと、やはりこういう場所は必要なのだと感じます。参加者アンケートでは「温かい雰囲気の中で、病気のことも安心して話せました」「体調管理の工夫などの情報が、とても参考になりました」といった声が寄せられます。皆さんの支えになっていることが伝わってきて、始めてよかったと思いますね。

私にとって、原点のような忘れられない出来事があります。それは、第1回の難病カフェでのことでした。皆さんの話をニコニコ笑顔で聞いていた女性が、ご自分の話を始めた途端、ワッと泣きだしてしまったのです。それまで誰にも病気のことを話せず、不安と孤独の中で過ごしてきたとのこと。私はその方の話を聞きながら、こんなにつらい思いをしている難病患者は他にもたくさんいるはずで、その人たちが安心して話せる場所が必要だということを改めて心に刻みました。この日の光景は、今でも活動を続ける原動力になっています。

オンラインの難病カフェや講演等の取り組み
現在は、COVID-19対策のため、オンラインの難病カフェを実施しています。関西や北陸など遠方から参加できたり、急に体調を崩しても自宅で休みながら参加できたり、オンラインならではのメリットもありますので、今後も続けていきたいと考えています。

その他の活動として、難病カフェで寄せられた皆さんの声を届けることで、少しでも生活しやすい社会になってほしいという思いで、講演等も引き受けています。オレンジカフェや大学のゼミに呼んでいただき、私の職業であるソーシャルワーカーに関する話や難病カフェの活動について、お話しすることもあります。草の根の活動を通して、外見では分かりにくい病気・障害を持ち、目に見えない生きづらさを抱える難病患者への理解が広まることを願っています。

安心して話しやすい工夫
通常の難病カフェは、出来るだけバリアフリーのカフェを探して実施しています。参加者には、自己紹介の際に病名やニックネームを言ってもらうのですが、「好きなおむすびの具」も教えてもらうことにしています。「好きなおむすびの具は何ですか?」と聞くと、一気に場が和むんですよ。

「難病カフェ おむすび」という名前は、私が発案しました。まず、人と人を結びつけるようなカフェにしたいという思いから「むすぶ」というキーワードが浮上し、親しみやすくて覚えやすい名前がいいなと考えているうちに、頭の中で「おむすび」に変換されたという感じです。

カフェで話し合いたいテーマは、事前に参加者から募集しています。それを5つにまとめ、「フリー」を加えた6つのテーマを設定します。当日は、テーマに1から6までの番号をつけてホワイトボードや模造紙に書いて掲示します。参加者にはサイコロを振ってもらい、出た数字のテーマで話してもらうのです。昔テレビ番組でやっていた「サイコロトーク」ですね。

今はオンラインで開催しているため、グループに分かれて決まったテーマに基づいて話し合ったり、全体でフリーディスカッションしたりしています。今後は、対面・オンラインそれぞれのメリットを生かしながら、両方バランスよく実施していきたいと思っています。

継続していくための運営資金が課題
運営上の課題を挙げるならば、難病カフェのスタッフは、全員が病気を持つ当事者であり、さらに仕事をしながら活動していますので、体調の面で大変な時があります。その意味で、サポーターさんの存在は大きいですね。

運営資金として、公的な助成金を申請したことはありますが、単年度の制度だったため、翌年はもう申請できませんでした。現在、おむすびのスタッフは4名で、全員がソーシャルワーカーです。その他に、毎回お手伝いしてくださる難病患者の方もいて、それぞれが思いを持ってボランティアで活動しています。しかし、長期的に活動を続けていくためには、お給料を出せるよう体制を整えていく必要があると感じています。

多様な働き方を可能とする社会へ
毎回のカフェでは、必ずといっていいほど「仕事・就業」にまつわる話題が上がります。「就職活動の際、どういうタイミングで病気の話をすべきなのか」「職場で、なかなか病気への理解が得られない」「時短など、身体への負担が少ない働き方をしたい」といった悩みが多いようです。多様な働き方が可能となる制度や、柔軟な働き方の浸透、社会の理解が求められるところです。

病気が再発して休職し、そのまま退職せざるを得ないという人も多いのではないでしょうか。そうなると病気を持ちながらの再就職は、さらに難しくなってしまいます。多くの難病患者は、「仕事・就業」の大きな不安を抱えながら生活せざるを得ません。

広がる難病カフェ
「難病カフェ おむすび」に参加した後、ご自身でオンラインの難病カフェを実施したと教えてくださる方もいます。他にも、新たに難病カフェの団体を立ち上げる準備を進めている方もいるんですよ。私たちの活動をきっかけにして、難病患者の「居場所」をつくる活動、生きやすい社会をつくっていこうという動きが、少しずつ広がっています。やはり、人と人の繋がりが大切だと感じます。

良いリーダーの資質とは?

1人の力では出来ないことを自覚し、柔軟に意見を取り入れる
私自身は、頼りなくて良いリーダーとは言えないんですよ。これまで活動を続けてきて思うのは、「1人では、絶対に無理だったな」ということです。今までやってこられたのは、スタッフやサポーターさん、カフェの参加者、応援してくださっている方々のおかげです。1人の力だけでやっている訳ではないことを忘れず、常に自覚していたいですね。

あとは、柔軟性でしょうか。いろいろな人がいて、いろいろな考えがあることを前提として、たとえ自分の意見と異なっていても、柔軟に取り入れるようにしています。自分の考えだけで突き進まないことが大切だと思っています。

今後の活動

患者自らが語る活動を広げたい
「難病カフェ おむすび」の活動を通して、患者同士が互いに元気や力をもらっている様子を目の当たりにしてきました。個人の経験を話すことで、話している人も元気になりますし、聞いている人も元気になる。ひいては、社会にさまざまな影響を与えていく。それこそ、語ることが持つ力なのだと感じています。

昨年、NCDアライアンス・ジャパンの「Our Views, Our Voices」プレワークショップに参加したことで、その思いは一層深まりました。そこで私が講演をする際には、「難病カフェ おむすび」の活動紹介だけでなく、私自身が得てきた経験についても、伝える努力をしています。

それを継続していくとともに、さらに今後は自分だけでなく、賛同してくれる難病患者さんたちと共に、当事者として得たものや感じたことを発信していく活動を広げていければいいと思っています。

常設の「居場所」づくり
現在、1カ月~数カ月に1回のペースで難病カフェを開催しているのですが、いつかは常設の「居場所」をつくりたいですね。病気の有無にかかわらず、誰もが気軽に立ち寄って交流できるカフェがあればいいと思います。時には、難病を持つ人同士が語り合うイベントを実施するなど、いろいろと思い描いています。

自分自身が難病患者として難病にフォーカスして活動しているうちに、私は自然と、難病を持つ人だけでなく、皆が生きやすい社会になってほしいと願うようになりました。難病を持つ人が生きやすい社会は、誰もが生きやすい社会に繋がっていくはずです。そのために、これからも活動を続けていきたいと考えています。

インタビュー一覧

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