当事者の声

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2019.09.12

「病気をもつ人に力を」患者・当事者協働型のより良い医療環境の実現を目指して

宿野部 武志
一般社団法人PPeCC 代表理事、一般社団法人ペイシェントフッド 代表理事

現在の活動を始めたきっかけ

私は3歳で慢性腎炎と診断され、物心ついた時から18歳まで入退院を繰り返す生活でした。大学受験の頃には、腎臓機能が低下して透析を開始することになりました。大学卒業後はソニーに就職し14年間勤務。人事部で労務や福利厚生といった業務に携わり、傷病休職や介護休職の制度を利用する社員との面談をしていくなかで、「病気に悩む人たちの役に立ちたい」という気持ちが高まっていきました。

実は、随分前からソーシャルワーカーになりたいと思っていたのですが、私はひとりっ子で幼い頃から病気で大変な生活が続き、ようやく就職できた会社を辞めると言ったところ、父が泣き出してしまったのです。それを見て「これは親不孝なのかもしれないな」と、思いとどまっていました。

しかし、あるとき透析の合併症で全身麻酔の手術が必要となり、自分の人生について深く考えることになりました。「自分が後悔しない生き方って何だろう」と自問し、「やはり自分はソーシャルワーカーとして医療に貢献したい」と決意して退職。国家試験の受験資格を得るため、専門学校に入学しました。入学までの期間に「患者の意思決定支援」をテーマとした講座が九州大学医学部にあると知り、「これは自分のやりたいことだ」と東京から何度も通って修了したこともあります。

こうしてソーシャルワーカーの国家資格を取得すると、練馬区社会福祉協議会の非常勤職員として、現場での相談業務に1年半従事。その後、「患者の立場で医療に貢献したい」との思いで「ペイシェントフッド」を2010年に設立しました。命名したのは妻です。それが現在の活動につながっています。

現在の活動

当事者の声 命の授業現在、自分が患者として貢献できる腎臓領域に特化したWebサイト「じんラボ( https://www.jinlab.jp/ )」の運営のような活動もしていますが、ペイシェントフッドの活動は、様々な疾患を持つ当事者の共通課題にフォーカスしています。最近は、腎臓領域以外にもネットワークが広がっており、さまざまな疾患を持つ人たちの話を聞くプログラムを実施しています。

活動をしている中で、難しいと感じることもありますね。例えば、企業によって患者の声を聞くことの重みづけに温度差がありますし、患者と話をするだけでプロモーションコード等のコンプライアンス違反になってしまうと勘違いしている担当者さえいます。製薬会社のミッションには、必ずと言っていいほど「患者のために」というフレーズが入っているにもかかわらず、患者の声を聞けない会社もあるのが現状です。

また、当事者の皆さんと話しているなかで、今まで知らなかった疾患がたくさんあり、治療を含め深刻な悩みを抱えていることを痛感しています。それぞれ個別の課題がある一方で、結婚や就職といった共通課題が多いことも知りました。そこで、疾患横断の共通課題の解決に向けて他疾患や難病の当事者たちと共にピーペックを立ち上げ、活動の場を広げています。

腎臓病の領域では、全国腎臓病協議会(全腎協)や各都道府県の患者会が国や都道府県に対して制度の改善を要求し、現在の透析患者に対する手厚い保障制度を築いてきました。また私自身、後に国会議員となった友人と共に活動するなかで、当事者の声を政府に届けることの重要性を強く認識しました。

ピーペックの活動も「患者協働の医療」が1つのテーマとなっていますが、そもそも「政策に患者が携わるべき」という議論があること自体、おかしなことです。患者・家族がステークホルダーの一員として参画し、医療政策や医薬品・医療機器の開発に関わるべきなのに、受身の状態でおまかせになっているのが現状です。

こうした環境を改善するには、医療者や患者自身も変わらなければなりません。さらに、病気を持っていない人もいつかは患者になり得る訳ですから、医療に無関係の人はいないことを自覚すべきです。

「患者協働」とは、病気になっても自分が大切にしたいことや夢を守り、思い描き、それを実現するための治療法を医療者や行政等のステークホルダーと相談しながら、ゴールを目指して一緒に進んでいくという考え方です。ですから当事者は、自分の大切なものが脅かされそうになったら、医師にもきちんと伝えなければなりません。言うべきことを言える関係性を築いていく必要があります。

患者として自分の意見を伝える力も必要であると同時に、それを支える社会としての成長も不可欠だと思います。そのためには「教育」が重要です。NCD アライアンス・ジャパンの枠組みで様々なテーマについて議論していても、結局は「教育」の必要性に行きつくことが多いですね。学校では「命の授業」等が既に行われていますが、さらに「医療との関わり方」の認識を根付かせる取り組みが求められます。

当事者支援活動におけるGood Practice

「社会」を変えるための活動を推進するには、やはり「一人ひとりが生きる力をどれだけ持つか」が大切だと思います。「じんサポ」では、透析治療の新規導入が決まって落ち込み、混乱している人に対し、同じ腎臓病の当事者が直接会って傾聴するピアサポート活動を行っています。この「じんサポ」を通し自分の悩みを整理・理解することで、多くの方が笑顔で帰って行きます。
問題を解決するための一歩を踏み出すサポートをする「じんサポ」によって、透析治療と向き合えるようになった人が、今度はサポートする側に回りたいということで「ピアサポーター養成講座」を受けに来るケースもあります。これは大きな気持ちの変化です。このように、一人ひとりの生きる力が高まるようなサイクルが重要だと思っています。

既に海外では、ピアサポートが臨床の現場に組み込まれています。日本の医療機関では現状患者の心のサポートまではなかなか手が回りません。ですから日本でも、ピアサポート制度が普及すればいいと考えています。

良いリーダーの素質とは?

私自身、まだ良いリーダーになれていない感じではありますが。例えば、慢性腎不全という同じ病名であっても、状況は一人ひとり違います。ですから講演等をする時には、必ず「私が透析患者の代表ではありませんよ」と話すようにしています。そして、じんラボで実施しているアンケートの結果を含め、出来る限り多くの当事者たちの声をしっかり伝えることを心掛けています。自分のために前へ出るのではなく、多くの人の声や思いをどうすれば上手く伝えられるかを常に考える。その役割がリーダーであると認識することが重要だと思います。

今後の活動

やはりピーペック(PPeCC)の名称である「Power to the People with Chronic Conditions (病気をもつ人に力を)」を追求し、病気があっても大丈夫と言える社会の実現に向け、政策提言や就労支援を含めて活動していきたいと思います。ピーペックカフェは、既に3回開催しています。色々な疾患の方々がざっくばらんに話したり、新しい出会いがあったり、ただ佇んでいるだけでもいいんです。皆さんの気持ちが安らぐ場になればいいと思っています。

また以前、医薬品の開発会議に当事者として参加した時、実際に使用する私たち患者のニーズとはかけ離れた提案内容に驚いたことがあります。例えば、透析患者は1日の水分摂取量を厳しく管理しなければならないため、飲水が必要な飲み薬は避けたいのです。そうした行き違いを避けるためにも、開発の現場にも当事者がもっと参加すべきだと思います。

インタビュー一覧

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