当事者の声

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2019.12.25

疾病横断の連携で「がんになっても安心して暮らせる社会」へ

天野 慎介
一般社団法人全国がん患者団体連合会/一般社団法人グループ・ネクサス・ジャパン

現在の活動を始めたきっかけ

私は2000年、27歳の時に悪性リンパ腫を発症しました。若年がん患者として化学療法や放射線療法、自家末梢血幹細胞移植といった治療を行い、再発も2回経験しています。

「情報不足を解消したい」「交流の場を提供したい」という思い
私は2000年、27歳の時に悪性リンパ腫を発症しました。若年がん患者として化学療法や放射線療法、自家末梢血幹細胞移植といった治療を行い、再発も2回経験しています。当時、既にインターネットはありましたが、十分な医療情報が患者に行き渡っていないと感じることが多々ありました。ある日、私と同じ悪性リンパ腫のおじいさんが「先生から分かりやすい資料をもらったから、君にもあげるよ」と手渡してくれたのは、インターネットで簡単に手に入る情報でした。おじいさんが、それを初めて知ったと聞いて衝撃でしたね。情報の格差を目の当たりにし、患者に適切な情報が行き渡る必要性を強く認識しました。
また、私が闘病した頃は身近に同世代の患者が少なく孤独を感じていました。しかし、グループ・ネクサス・ジャパンの設立集会に誘われて行ってみると、同じ悪性リンパ腫の人の話を聞くだけで癒され、励まされることを実感。自分も交流の場をつくることに関わりたいと思うようになりました。こうした「情報不足を解消したい」「交流の場を提供したい」という2つの思いが、現在の活動のきっかけになっていると思います。
グループ・ネクサス・ジャパンは、当時インターネット上の掲示板で情報交換していたメンバーが集まって発足。初めてのオフ会で、渋谷のネクサス(nexus:絆、つながり)という会議室に集まったことが名称の由来になっています。
現在は、一般社団法人グループ・ネクサス・ジャパンとして活動していますが、当初は任意団体から始め、5年以上経ってからNPO法人になりました。「寄付をしたくても任意団体ではできない」と複数の企業から言われ、NPO法人になった経緯があります。患者団体の活動経験があるメンバーは少なく、手探りの状態でした。

現在の活動

良かったこと、困難に感じること
同じ患者だからこそ、通じ合えることは沢山あります。例えば、電話相談の対応をしていて「私も患者なんですよ」と言うだけで、通じ合えることは多い。それが患者団体として活動する大きな意義だと思います。
がん領域では、2006年にがん対策基本法*1が成立。その後、他の疾病に先がけて患者参画が進んできました。先行して患者の声を政策に反映する経緯を目の当たりにでき、よかったと感じています。

現在の活動をするなかで難しいと感じるのは、やはり予算規模が小さいことですね。米国では、小さな患者団体でも年間100万ドル程度の予算はあるものですが、日本は資金集めが非常に難しい状況です。
また、政策提言の仕組み自体はできあがったものの、実際にがん医療の現場で患者の声が反映されているかというと、まだまだ不十分といえます。例えば、診断や治療選択などについて現在診療を受けている主治医とは別に、違う医療機関の医師に求める「第2の意見」であるセカンドオピニオンは患者にとって必要かつ大切な権利のはずなのに、主治医にセカンドオピニオンの意向を伝えた途端、その場で怒鳴られたという人がまだいるのです。患者の声を届ける仕組みはできても、実際に隅々まで生かすような体制にはなっていません。

国民皆保険制度があり、海外の先行事例を取り入れるのが日本の良いところ
一方で、日本だから良い部分もあります。例えば、欧米の仕組みを範として自国に取り入れるのが上手く、効率的です。近年、がん関連学会の学術集会には患者参画プログラムが設定されるようになり、日本医療研究開発機構(AMED: Japan Agency for Medical Research and Development) *2でも医学研究・臨床試験における患者・市民参画(PPI: Patient and Public Involvement)の取り組みが進んでいます。これらは、いずれも欧米で既に広がっている動きが日本に取り入れられたものです。
決定的なアドバンテージといえるのは、国民皆保険制度の存在でしょう。皆保険制度のない米国では、治療薬があっても使えない患者が相当います。皆保険制度によって多くの患者が適切な治療を受けられるのは、圧倒的に日本の良い部分といえます。

患者団体を取り巻く環境は大きく変わっている
どの患者団体も、後継者不足や人材不足といった共通の問題を抱える一方で、新たに関わりを持つ人が増えているという実感は間違いなくあります。キャンサーペアレンツ*3やマギーズ東京*4といった団体が設立され、活動の場を広げていますし、多様な組織がセクターの壁を越えて共同で社会課題の解決に取り組む「コレクティブインパクト」 (集合的インパクト)*5という言い方があるように、従来の医療者と患者だけでなく、就労支援等を通して一般企業の関わりも増えてきました。
例えば、「がん経験者だからこそ社会に発信できることがあるはず」というコンセプトで患者支援・啓発活動を展開する「ダカラコソクリエイト」*6という取り組みがあります。また、がん経験者の情報を発信するインタビュー情報サイト「がんノート」*7では、公開放送動画をYouTubeチャンネルで公開しています。
20年前であれば、自分ががんであることを公表することさえ困難だった状況を考えると、現在は良い意味でハードルが下がりつつあります。ICTが著しく進化しSNSも普及していますので、居住地や時間にとらわれず、交流の場を持てるようになってきたことも大きな変化につながっていると思います。

これまでの活動におけるGood Practice

「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」が第2期基本計画の全体目標に
私は2009~2012年まで、厚労省のがん対策推進協議会*8で患者委員および会長代理を拝命。第2期がん対策推進基本計画*9を策定する際には、全体目標に「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」という項目を加えることができました。
第1期は「救える命を救う」が基本的なコンセプトで、ドラッグラグの解消やがん医療の均てん化が主要なテーマでした。つまり医療中心だったのですが、第2期はさらに踏み込み、がん患者の就労を含めた社会的な問題等を個別目標に盛り込むことができたのです。それは簡単な道筋ではなく「なぜ、医療を話し合う場で就労の問題を取り上げるのか」といったネガティブな意見も多く寄せられました。

仲間の遺志を継いで
時期を同じくして、私は沖縄県がん診療連携協議会で患者委員を務めてきましたが、沖縄には離島ゆえのさまざまな事情があります。経済的理由で治療を断念せざるを得ない、また本島との格差で必要な治療が受けられないといった状況があり、がんへの差別や偏見も根強く残っています。
さらに当時は、高額療養費制度はあったものの外来で一時払いをしなければならず、患者によっては、その費用が100万円を超えるケースもありました。そこで第1期がん対策推進基本計画の委員だった金子明美さんは、「がん患者は、がんとの闘いのみならず、お金との闘いも強いられている」と訴えましたが、志半ばでがんのため他界。その思いを引き継ぎ、「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」を国のがん対策に反映することができました。

当事者が思いを語ったことで、流れは大きく変わった
がん登録等の推進に関する法律(がん登録推進法)*10の成立をめぐっても、同じような状況がありました。国民のがん罹患情報を政府が一括管理することには、個人情報保護の観点で問題ではないかという指摘があったのです。
そこで、私たちが「海外には同様の仕組みがあるのに日本にないのはおかしい」と訴えるなか、流れを大きく変えた決定的な瞬間がありました。ある小児がん経験者が「これから小児がんになる患者には、私たちと同じ悲しみや苦しみを経験してほしくない。そのために自分たちのデータが役立つならば、ぜひ使ってほしい」と訴えたのです。他ならぬ当事者がその必要性を訴えたことで、議論の流れはガラッと変わりました。患者の力を感じた瞬間です。
振り返ると、患者会として情報共有や交流のための互助的な機能は大事ですが、それだけでは患者を救えないと感じ、政策提言活動に関わるようになりました。議員会館訪問の作法、ファックスの送り方、面談資料の作り方、政策提言のタイミング等、多くの失敗を繰り返し、助言を得ながら経験を積み重ねてきました。同じ思いを持つ患者団体と連携したり、歴史の古い難病団体の活動から学んだり、そっとアドバイスをくれる方々の支えも大きかったですね。

医療費は国民全体の議論
医療には、医療者と患者だけで話し合っても変わらない問題がたくさんあります。特に医療費に関しては、国民全体の議論が必要です。以前、高額薬価をテーマとしたNHKのテレビ番組へ出演した際には、視聴者からかなり大きな反応があったと聞きました。自分や自分の大切な人ががんになった時、目の前に有効性と安全性が明らかな治療薬があるにもかかわらず、それを使えないのは苦しいことです。国民の皆さんはどう考えるのか。議論がまだ不足していることを痛感しています。今後、社会保障の在り方についての議論が進んでいくなかで、まだ患者の声が十分に届いているとは思えません。

良いリーダーの資質とは?

「ナラティブ」と「エビデンス」をバランスよく発信する力
患者自身が思いを持ってメッセージを伝える「ナラティブ」には大きな力があります。ただし同時に「エビデンス」も求められるため、政策提言を行うようなリーダーには、この「ナラティブ」と「エビデンス」をバランスよく訴える能力が必要でしょう。同様のことは海外の患者団体でも言われていますが、やはり軸となるのは「ナラティブ」だと思います。患者のしんどさや思いを汲み取れない人に、リーダーは務まりません。
がん対策基本法の成立において重要な役割を果たしたリーダーの1人に、佐藤均さん(故人)という方がいます。佐藤さんはテレビカメラマンという職業柄、メディアが患者の声をどのように伝えるかをよく理解していて、限られた時間で多くの人に届くメッセージを伝えることができました。例えば「救える命を救う」という短い言葉には、重要なメッセージが沢山詰まっています。こうした「発信力」も良いリーダーとして重要な資質だと思います。

今後の活動

疾病横断の連携、医療関連以外の人々を巻き込んだ活動を推進
社会保障改革が始まるなかで、がんをはじめ命にかかわる疾病の患者が適切な医療を受け続けるために何ができるか。そう考えると、がんだけでなくさまざまな「疾病横断の連携」が必要になってきます。そういった活動を進めていきたいと思います。
また、がん患者も病院を出れば1人の生活者です。生活者の視点で、関わる人を増やしていく活動が必要です。最近は、ヘルスケア関連ではない民間企業も、がん患者支援に関心を示してくれるようになり、幅広い人々を巻き込んだ活動を広げつつあります。
医療への患者参画に関しては、治療薬や医療機器の開発においてもPPIを進める必要がある一方、では「患者の誰を呼べばいいのか」という課題にも直面しています。そこで全国がん患者団体連合会では、臨床試験について理解を深める研修会等を行っていますし、日本癌学会の学術総会でも、がん研究を支援するサバイバー(リサーチ・アドボケート)育成のためのプログラムを実施しています。受講修了者は増えているのですが、まだ圧倒的に少ないため、ファンディングエージェンシー*11(資金供与機関)を含む公的機関による推進が喫緊の課題となっています。


*1 国、地方公共団体等の責務を明確にし、基本的施策、対策の推進に関する計画と厚生労働省にがん対策推進協議会を置くことを定めた法律

*2医療の分野における基礎から実用化までの研究開発が切れ目なく行われ、その成果が円滑に実用化されるよう、大学や研究機関などが行う研究を支援し、研究開発やそのための環境の整備に取り組む機関

*3キャンサーペアレンツ: https://cancer-parents.org/

*4マギーズ東京: https://maggiestokyo.org/

*5立場の異なる組織(行政、企業、NPO、財団、有志団体など)が、組織の壁を越えてお互いの強みを出し合い社会的課題の解決を目指すアプローチのこと

*6「がん経験者の視点を新しい価値に変えて社会に活かす」をテーマに、社会に対して、がん経験者、すなわち社会課題の当事者「だからこそ」できることを模索し、クリエイティブな発想で形にしていくソーシャルデザインプロジェクト

*7 がんノート: https://gannote.com/

*8がん対策基本法により、政府が策定する「がん対策推進基本計画」の立案や変更に際し、意見を聴くために設置された

*9 がん対策基本法 第9条にて定められており、政府が策定する、がん対策の総合的かつ計画的な推進を図るため、がん対策の推進に関する基本的な計画

*10 全国がん登録の実施やこれらの情報の利用及び提供、保護等について定めるとともに、院内がん登録等の推進に関する事項等を定めており、2016年1月1日から施行

*11 公募により優れた研究開発課題を選定し、研究資金配分、運営管理、企画立案する機関

インタビュー一覧

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