管理者インタビュー

門脇 孝 先生

日本は、国、地方自治体、学会、医師会、協会等がそれぞれの立場でNCD対策を推進し、これらの活動が相乗効果を生んでいるのではないでしょうか。日本のNCD予防の取組みが世界のNCD対策の模範を示すようなかたちになればと願います。

超高齢社会を歩む日本におけるNCD課題

現在、我が国ではNCDが非常に大きな問題となっています。これは超高齢化社会を歩んでいる我が国にとって大きな問題です。循環器疾患、がん、慢性呼吸器疾患に加えて糖尿病が我が国のNCD対策の中で取り上げられています
糖尿病については、2007年の厚生労働省のデータで、患者数890万人、予備軍1320万人、あわせて2210万人という状態で、増加は止まっていないと考えられます。アジア人はインスリンの分泌が低い体質ですが、かつての日本では、和食中心、体を良く動かす生活のため、ほとんど問題がありませんでした。しかしこの数十年間、いわゆる欧米型の生活習慣により内臓脂肪蓄積者が増加し、元来の体質に加え、インスリン抵抗性(体がすい臓から分泌しているホルモンのインスリンが、標的とする細胞(筋肉や脂肪)に十分作用しない状態)を引き起こし、糖尿病の爆発的な増加につながっていると考えられます。
肥満やメタボの問題は、高血圧や脂質異常を伴いやすく、糖尿病だけでなく、脳血管疾患や虚血性心疾患など循環器疾患の大きな原因にもなっています。

日本のNCD対策の現状

NCDの予防策として、国は健康増進法に基づき、国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針である「健康日本21」を策定しました。国はNCD対策について集団アプローチ(Population approach)だけでなく、疾病リスクの大きい者への重点的支援・指導を行う、高リスクアプローチ(High risk approach)を行うべく、特定健康診査・特定保健指導(メタボ健診)を始めました。
メタボ健診の中で内臓脂肪を減らすことによって糖尿病や循環器疾患を減らそうという試みは、一部の地域や職域では成功していますが、依然として受診率が十分ではありません
加えて、対象者が健康状態を自覚して、生活習慣改善に向けた取組みを行えるよう支援する「動機づけ支援」や、対象者が目標達成に向けた実践に取組む「積極的支援」を最後までやり遂げた人の数も不十分な数値です。平成25年の4月から始まる次の特定健診保健指導に向けて、厚生労働省でより質や仕組みを向上させる方策を取りまとめているところです。

国、地方自治体、学会による協働の取組み

糖尿病に絞ると、厚生労働省としては4つの目標を掲げています。
1つは、合併症、特に糖尿病性腎症による年間新規透析導入患者数の減少。2つ目に、治療継続者の割合の増加。3つ目に、血糖コントロール指標におけるコントロール不良者の割合の減少。4つ目に、糖尿病有病者の増加の抑制。これを進めていくうえでの生活習慣の改善、社会環境の改善では、栄養食生活の問題、特に身体活動、運動の問題が強調されています。

糖尿病性腎症の年間新規透析導入患者数は、毎年約1万6千人であり、この2、3年は横ばい、あるいは減少傾向とも取れる数値です。これについては、糖尿病性腎症における透析導入患者の減少について我が国の努力が実りつつあるという指摘もあります。また、健康的な生活習慣に対する意識の向上、糖尿病の管理が向上していることの一つの表れではないかということで、健康日本21、メタボ健診、日本医師会、日本糖尿病学会、日本糖尿病協会でつくってきた全国、地域における糖尿病対策推進会議の成果かと考えてます。糖尿病についての様々な地域医療計画、地域連携の中で、認知度があがっているので、早期発見、早期治療の取組みが進んでいます。

現在、糖尿病と診断されても、治療を受けていない方は約40%います。糖尿病では、治療中断者が高いリスクを負うことになります。以前に比べれば受療率はあがっていますが、さらに努力が必要です。糖尿病患者の受診中断率を改善する効果を検証する、糖尿病予防のための戦略研究の結果により、糖尿病の診療に関するプロセス指標を定めた取り組みがなされ、その結果、治療の中断率が約60%低減したといったデータもあります。

血糖コントロール指標におけるコントロール不良者の減少の割合については、食事・運動療法を基本とし、我が国ではインクレチン関連薬、とくにDPP-4阻害薬が普及していることが関連していると考えます。
現在、経口血糖降下薬服用者500万人のうち200万人がDPP-4阻害薬を服用しています。DPP-4阻害薬のような、新しい作用機序の薬を、的確・適正に使用し、使った場合には効果があることを個々の症例について丁寧に確かめ、安全性にも十分配慮しながら、データベースの構築や臨床研究を積み上げることが大切です。糖尿病は早期発見するほど治療がうまくいくので、日本糖尿病学会は早期発見のために、2010年の7月から診断基準を改定しました。

このように、国の取組み、地方自治体の取組み、学会、日本医師会、日本糖尿病学会、日本糖尿病協会の取組み、こういったものが一定の効果を生むようになったのではないかと考えます。さらに、糖尿病腎症がはっきり減るようになるまで努力を続ける必要があるるでしょう。また、日本糖尿病学会は日本腎臓学会とも連携をして、両学会でメタボ対策と慢性腎臓病(CKD)対策を一緒に行ってきたので、このような取り組みが相乗効果を生んでいるのかもしれません

日本のNCD対策の知見を海外へ

糖尿病有病者数については増加傾向にありますが、高齢化を考慮に入れ、年齢調整をすると、伸びはやや鈍っていると感じており、その点では国、学会、医師会、協会レベルでの対策がある程度、実を結びつつあるのではないかと思います。
我が国の様々な健康の取り組み、NCD対策は、諸外国に比べても、教育レベルが高いこと、各自治体がきめ細かい対策をたてていることから、功を奏する可能性が高いとみています。日本のNCD予防の取り組みが、世界のNCD対策の模範を示すような形になればと思います。NCDの病態はアジアで共通面があるので、アジアでのNCDの解決につながればと思います。

2013年8月5日時点でのご所属、事業・業務内容
専門家インタビュー一覧

gotoTop