当事者の声

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当事者の声

2020.02.07

「病気をもつ人がより生活しやすい社会」に向けた患者会活動支援

武田 飛呂城
一般社団法人 ピーペック理事(CKO)
特定非営利活動法人 日本慢性疾患セルフマネジメント協会 事務局長

現在の活動を始めたきっかけ

相談できる患者団体があるという安心感
生まれつき血友病をもっていた私は、薬害HIV事件によってHIVに感染しました。他に、心臓等にも疾患があります。特に体調が悪かった大学時代の頃から、はばたき福祉事業団という薬害HIVの支援団体に相談していたのですが、医療や福祉など、困ったことを相談すれば一緒に考えてくれる患者団体があるのは、安心でありがたいなと実感したものです。
大学を卒業する頃は入院することも多く、就職を断念。卒業後は、出版社に就職した先輩に仕事をもらいながら、フリーライターをしていました。そんなある日、はばたき福祉事業団から慢性疾患セルフマネジメントプログラムの研修に誘われました。スタンフォード大学で開発された本プログラムは、疾患をもつ当事者がQOLを高めるための自己管理スキルを体系的に学ぶものです。
当時、はばたき福祉事業団を含む複数の患者団体が、日本製薬工業協会広報委員会ペーシェントグループ部会の協力の下、病気をもつ人たちが自立を目指す新しい活動として、本プログラムを日本に広げたいと考えていました。私は、その導入プロジェクトの中で研修に参加し、本プログラムの普及啓発のために設立された日本慢性疾患セルフマネジメント協会の立ち上げスタッフとして誘われ、事務局を任されたのです。

やりたいことをするための自己管理
これまで、日本で病気の自己管理といえば、服薬、食事、運動といった治療に関することが多かったのですが、本プログラムでは、治療、生活、感情の3つの領域にわたる自己管理を学ぶことができます。例えば「こんなふうに職場の同僚に頼めば、体に無理なく仕事を続けられる」「こうやって医療者に伝えれば、より一緒に治療のことを考えられる」といった人とのコミュニケーションのとり方など、当事者の健康のみならず生活全般に生かせる内容になっています。
本プログラムの研修に参加した際、「やりたいことをするための自己管理ですよ。あなたのやりたいことは何ですか?」と言われて、私は答えられませんでした。逆に、注射を打たなければならない、薬を飲まなければならない、やらなければならないことはたくさん頭に浮かびます。そこで、はっと気づきました。「そうか。やりたいことをするために生きているんだ。やらなければならないことに、押しつぶされている場合じゃないぞ」と。自己管理によって体調を良くし、やりたいことを1つでも増やしていこうと思ったことが、現在の患者活動の原点になっています。
この日本慢性疾患セルフマネジメント協会の立ち上げから参加し活動するなかで、思いを共にするメンバーと出会い、ピーペックを立ち上げることになりました。ピーペックでは、病気をもつ人たちへの支援、患者団体支援、社会における普及啓発をおこなっています。

 

現在の活動

患者のがんばりだけでは限界がある

日本慢性疾患セルフマネジメント協会の活動をしていて、困難を感じたことが2つあります。1つ目に、NPOとして活動を続けていくことは、財政的に大変でした。寄付文化が根付いていない日本で、市民団体が一定の規模を保ちつつ活動を維持するのは難しいことです。助成金もほとんどが単年度で、次の年も継続されるとは限りません。
2つ目に、慢性疾患セルフマネジメントプログラムの普及に向けて取り組むなかで、病気をもつ個人のがんばりだけでは限界があると感じました。病気をもっていれば体調が悪い時もありますし、社会で生きていくのは、ただでさえ大変です。例えば就職に向けてスキルを身につけるとか、なるべく体調を崩さないよう自己管理に気を使うとか、個人のがんばりも大事ですが、それだけで病気をもつ人が住みやすい世の中になるとは思えません。もっと病気をもつ人が生きやすい世の中にしたい。存続の難しい患者団体を支援したい。そういう思いが、ピーペックの立ち上げにつながっています。

これまでの活動におけるGood Practice

 受ける側から伝える側への循環
病気をもっていると、自分もこんな人になりたいと思うようなロールモデルには、なかなか出会えません。私も高校生の頃には、病気の体でどうやって生きていけばいいのか、全く分かりませんでした。しかし、患者会の活動をするなかで、お手本になるような人にたくさん出会えたのです。
これまで難病やがんの領域で当事者として活動し、病気をもつ人が生活しやすい社会へと道を切り開いてきた先輩たちと話していると、多くの示唆をもらえます。同じ志を持つ人に出会うことは、自分のモチベーションにもなります。
慢性疾患セルフマネジメントプログラムでも、プログラムを受講した人が、研修を受けた後にプログラムを伝える側に回るということもあります。相談しに来た人が、今度は相談員になることもあります。一方通行の関係ではなく循環していくことが、私たちの活動の良さだと思いますね。

国が本腰を入れると環境は大きく変わる
薬害HIVの被害者たちが国や製薬企業を相手にした裁判で和解を勝ち取ると、1997年には、国立国際医療研究センター内にエイズ治療・研究開発センター(ACC: AIDS Clinical Center)が設立されました。さらに全国8つのブロックにブロック拠点病院が整備され、国内のHIV医療体制が確立しました。
こうした医療体制の確立前は年間60名前後の被害者が亡くなっていましたが、ACCとブロック拠点病院の設立後、被害者の年間死亡者数は10から20名程度まで激減しました。HIVの有効な治療薬が開発されたこともあり、近年ではHIVによる死亡者数はさらに大きく減少しています。病気をもつ当事者による「専門の医療機関をつくることが命を守ることにつながる」という主張を国が認め、日本のHIV医療体制は作られました。国が本腰を入れれば、医療環境はこれほど大きく変わるのかと実感するとともに、医療政策に当事者の声を反映させることの重要性を感じました。大事なのは、最初から無理だと諦めずに続ける熱意と、相手を納得させるための客観的なデータを示すことだと感じます。

良いリーダーの資質とは?

 「迷うこと」と「決断すること」を両立する
病気をもつ人たちの声を代弁するというのは、責任が大きく大変なことです。ですから、常に「迷うこと」と「決断すること」を両立していく必要があると思っています。1つの政策が進めば、どこかで弊害が生まれている可能性もある。ベネフィットだけでなく、リスクが生じるという側面を忘れてはなりません。
当事者の声を代弁して政策に働きかけている人たちは、迷い悩みながら「まずはこれをやろう」と決断している場合が多いと思います。そこで何らかの弊害が起これば、すぐに対応を考える。決めて終わりではなく、その後も考え、迷い続け、さらに決断をしと、より良いものにバージョンアップさせていく粘り強い活動をしている人がたくさんいます。

どれだけ多くの患者さんの顔が浮かぶか
そうやって迷いながら決断するための軸は、「どれだけ多くの患者さんの顔が浮かぶか」ということです。やはり自分の体験だけでは狭く、それぞれの人にそれぞれの体験があります。何かを提言する時、どれだけの人の顔が思い浮かぶかということが、重要だと思うのです。
2016年12月9日に成立した「改正がん対策基本法」において、難治性がんや希少がんの研究促進に関する項目を新たに盛り込むことができた原動力は、患者団体の声でした。当事者の要望や提言をまとめた方たちは、深く広く、埋もれてしまいそうな声を丁寧に聞くことで、最大多数の課題解決につながるよう、時に迷いながらも決断をされたことでしょう。日々、どれだけの人の声を聞けるかが、私たちが活動をする上で勝負になってくると思います。例えばピーペックでは、いろいろな人々が気軽に話せるカフェ事業もおこなっています。
近年は治療薬が進歩し、HIVで亡くなる人は少なくなりました。しかし、私が入退院を繰り返していた頃は、病院で知り合った親しい友人たちを霊安室で見送らなければならないことも多かったのです。私は、叔父も薬害HIVで亡くしていますし、高校生から大学生の時代に人の生死に多く触れました。このことは、自分にとって忘れられない原点です。
生きている人、亡くなってしまった人、いろいろな人の顔が浮かぶたびに、患者を取り巻く環境をよりよくしていかなければいけないと感じます。そのためには、決断をしていかなければいけない。これまで知らなかった、病気をもつ人の悩みや困りごとを知るためのチャンネルをいくつも作っておかなければいけない。そういう思いが、私の活動の軸になっています。それぞれの知見や課題を多様な人々が共有できるプラットフォームである、NCDアライアンス・ジャパンやピーペック等の活動意義にもつながりますね。

今後の活動

多様な人々が助け合って続けていく
活動を長く続けるために、まずは、自分が健康にいられるよう自己管理していかなければと思います。現在、私は3つの団体に所属しているのですが、単一疾患の患者会活動と多様な人たちとの活動、それぞれの良さがあるので両方を大事にしたいですね。
活動を広げていくためには、多様な人々が集まって取り組むことが重要です。患者会活動に専従で取り組むのは難しく、別に仕事を持っている人も多い状況で、各団体が一緒にできる部分を効率化すれば、大変さを分け合うことができます。そもそも病気をもつ当事者として体力的にも厳しいわけですから、助け合って続けていければいいと思います。

若い人たちが意義を感じられる場所づくり
今は、インターネットで検索すれば、真偽はさておき多くの情報が手に入るようになりました。そのため、若い人が患者会になかなか集まりにくい状況にあります。やはり若い人たちも一緒に取り組める活動をしていく必要があると思っています。
ICT技術を活用するのも1つの方法でしょう。Web会議システムを活用し、会場へ行かなくても参加できる交流会を開催している患者会もあります。若い人たちが、参加することの意義を感じられる場所づくりをしていきたいですね。
例えば、若い人が直面する大きな問題の1つに「就職」があります。新卒採用に重点が置かれている日本では、途中でキャリアパスを離脱すると元に戻るのは大変です。こうした雇用環境の流動化が進まなければ、病気をもちながら生活していくのは厳しい。企業にとっても、労働人口が減少するなかで、フルタイムでバリバリ働けなければ雇用しないという状況を改善しなければ、優秀な人材を確保していくのは難しいのではないでしょうか。
つまり雇用環境の流動化は、両者にとってWin-Winとなります。多様な人々が活躍できる場をつくることは、社会にとってもいいことですので、これを推進していきたいと思います。昨年11月、ピーペックでは「当事者と一緒に考える難病の就労・両立支援 当事者×支援者協働ワークショップ」を開催し、社労士等の専門家も交えて大変有意義な意見交換ができました。今後も、そういう場をつくっていきたいと考えています。
最近、英語の得意な若手メンバーが海外の研修プログラムに参加する機会も増えてきました。しかし、まだ言葉の壁に阻まれ、日本の患者が気軽に参加できる状況ではありません。これから英語のできる人たちが、どんどん出てきてほしいと思います。
海外と日本を比較すると、日本の良い制度として、やはり国民皆保険が挙げられます。今後、財政的な問題が大きくなることが予想されますが、国民皆保険は堅持していかなければいけません。また、日本には、ほとんど無給で熱意だけで患者会活動をしている人たちがたくさんいます。これも海外に誇るべきものでしょう。ただし、今後は、そのような患者会が無理なく活動していくための支援が必要です。そのような支援を、ピーペックとして進めていきたいと考えています。

インタビュー一覧

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