【調査報告】「がんゲノム医療」に関するインターネット調査結果(概要)(2023年5月11日)
※英語版を公開しました。(2023年6月12日)
日本医療政策機構「産官学民で考えるがん個別化医療の未来」プロジェクトは、2023年3月、「がんゲノム医療」の実態把握をするため、東京女子医大衛生学公衆衛生学分野グローバルヘルス部門と共同で、がん患者やその家族を対象に、①がんゲノム医療の知名度、②遺伝子パネル検査の知名度、③遺伝子パネル検査の受検状況等について調査を行いました。
■調査結果のポイント
- 本人または家族が過去5年以内に癌と診断された人のうち、「がんゲノム医療について聞いたことがある」と回答した人の割合は、4割弱であった
- 年齢階層別にみると、60歳以上の回答者では、「がんゲノム医療」や「遺伝子パネル検査」を聞いたことがあると回答した人の割合、あるいは、「医師らからがんゲノム医療について説明をうけた」と回答した人の割合は、他の年齢階層と比べて相対的に低い傾向がみられた
【調査の実施概要】
本調査は、本人または家族が癌に罹患したことのある20歳以上の男女1,000名を対象に、インターネット調査を使用し2023年3月に実施した。調査にあたっては、その目的を説明し、同意が得られたものを対象とし、匿名性を保って分析を行った。
- 調査時期:2023年3月下旬
- 調査方法:インターネット調査
- 対象者:調査会社クロスマーケティングの疾患パネル(登録者は過去1年以内にがんのための通院したことがある人)に登録された全国の20歳以上の男女で、過去5年以内に本人または家族が癌と診断された人(計1,000名, 男女各500名)
- 有効回答数:1,000
■調査結果
1. 「がんゲノム医療」の知名度等
(1)「がんゲノム医療」の知名度
「あなたはがんゲノム医療について聞いたことがありますか?」に対して「はい」と回答した人の割合は、全体では35.3%(353人/1,000人)であった。
これを年齢階層別にみると、「20-29歳」から「40-49歳」では約40%、「50-59歳」および「60歳以上」では約30%であった。
(2)「がんゲノム医療」の説明
「がんゲノム医療について聞いたことがある」と回答した人(353人)のうち、「がんゲノム医療について、これまでの治療中に主治医、看護師、もしくはそのほかの医療職員から説明を受けたことがありますか?」に対して「はい」と回答した人の割合は、44.5%(157人/353人)であった。
これを年齢階層別にみると、「30-39歳」で最も高く69.2%(72人/104人)、これ以降は年齢が上がるほど低くなり、「60歳以上」で最も低く19.0%(11人/58人)であった。
(3)「がんゲノム医療」の情報源
「あなたが、がんゲノム医療の情報の入手源に関して、最も信頼している情報源は何ですか?」に対して「医師または医療従事者」と回答した人の割合は49.6%(175人/353人)で最も高かった。
2. 「遺伝子パネル検査(がんゲノムプロファイリング検査)」の知名度等
(1)「遺伝子パネル検査(がんゲノムプロファイリング検査)」の知名度
「あなたは、遺伝子パネル検査(がんゲノムプロファイリング検査)について聞いたことがありますか?」に対して「はい」と回答した人の割合は、全体では19.6%(196人/1,000人)であった。
これを年齢階層別にみると、「30-39歳」で最も高く28.3%(78人/276人)、これ以降は年齢が上がるほど低くなり、「60歳以上」で最も低く10.0%(20人/200人)であった。
(2)「遺伝子パネル検査」に関する医師からの説明等
①「あなたの癌に対して、医師から遺伝子パネル検査に関して説明と推奨はありましたか?」に対して「あった」と回答した人の割合は20.5%(205人/1,000人)、「なかった」と回答した人の割合は53.4%(534人/1,000人)、「わからない」と回答した人の割合は25.9%(259人/1,000人)であった。
②「医師から遺伝子パネル検査に関して説明があった」と回答した人(205人)のうち、「説明を受けたタイミング」に対して「標準治療前」(96人)と回答した人が最も多く、次いで「標準治療中」(84人)、「標準治療後」(25人)であった。
3. 「遺伝子パネル検査」の受検日程等
(1)「遺伝子パネル検査」を受けた割合
「遺伝子パネル検査を受けましたか?」に対して「受けた」と回答した人の割合は、全体では18.6%(186人/1,000人)であった。
(2)「検査を受けるまでの日数」「検査を受けた場所」等
「遺伝子パネル検査を受けた」と回答した人(186人)のうち、「検査を希望してから、実際に検査を受けられるまでの日数」に対して「受けた(1か月以内)」と回答した人が最も多く81人であった。
「遺伝子パネル検査を受けた」と回答した人(186 人)のうち、「どこで遺伝子パネル検査を受けましたか?」に対して「住まいの市町村の医療機関」と回答した人が71人、「住まいの県内だが市町村外の医療機関」と回答した人が72人であった一方、「住まいの隣接県の医療機関」や「それ以外の遠方の県外」と回答した人はそれぞれ31人、12人であった。
4. 調査の限界と今後の展望
本調査の限界として主に3点挙げる。1点目に、本調査はパネル登録者を対象にインターネットを使用して実施している。インターネット調査は、回答者がインターネットを使用できる人に限られることや、回答者の学歴に偏りがある[1]などの特徴があり、代表性のあるサンプルではない可能性がある。2点目に、回答数が十分ではないため、特に層別化した際の解釈には十分な注意が必要である。3点目に、示した結果はクロス集計であり、統計的有意差検定は行われていない。
今後は、調査を共同で行った東京女子医大衛生学公衆衛生学分野グローバルヘルス部門と連携し査読付論文に結果を公表予定である。
以上
[1] 埴淵知哉,村中亮夫,安藤雅登,2015,「インターネット調査によるデータ収集の課題—不良回答, 回答時間, および地理的特性に注目した分析—」,E-journal GEO,10(1),81-98.