【開催報告】第1回 NCDアライアンス・ジャパン患者・当事者向けセミナー「当事者の声を政策に反映させるために」(2021年12月7日)
この度、日本医療政策機構が事務局を務めるNCDアライアンス・ジャパンでは、第1回患者・当事者向けセミナーとして、「当事者の声を政策に反映させるために」と題し、「子どもと医療」プロジェクト代表の阿真京子氏より患者参画の意義や具体的な参画の方法、好事例等についてご講演いただきました。
本講演は今後、当事者の方々が政策形成の場に参画する際の参考となるよう、知識・ノウハウを蓄積することを目的として、動画(セミナー本編部分のみ抜粋)も併せて公開しております。
<講演のポイント>
・当事者の声を政策に反映するために市民ができる参画方法は「パブリックコメントを出す」、「団体を作る」、「検討会等を傍聴する」、「委員として検討会等に出席する」である
・個人としての原体験を消化し、多様なステークホルダーと建設的な意見交換を行う必要がある
・医療者や専門委員のように専門領域に詳しくなりすぎる必要はなく、「一般の人の目線」を発信するという立場であることを大切にするべきである
・当事者の声をよく聞くことが患者委員にとって最も大切である
■自身のご活動ときっかけ
子どもが急変し救急外来を受診した自身の経験から、自分の子どもの場合は運良く助かったものの、運が悪ければ後遺症等が残るような可能性もあったのではないかと考えた。自分自身も医療について知識の無い、不安を抱える親であったため、まずは医療について知ることでこのような状況を変えようと思い、2007年4月「知ろう小児医療 守ろう子ども達の会」を立ち上げた。その後、2018年には厚生労働省による「上手な医療のかかり方」プロジェクトに「かかり方の解決策枠」として参加するに至った。しかし、上手な医療のかかり方の啓発は民間事業ではなく、自治体によって実施されることが大切であると訴え続けていた。その結果、2020年2月、新宿区や横浜市、岡崎市において上手な医療のかかり方の啓発に関するモデル事業が開始されたため、「知ろう小児医療 守ろう子ども達の会」は2020年4月に解散した。2021年度内には各自治体で本事業の実施に関する通知を発出するよう現在も活動している。
■当事者の声を政策に反映するために市民ができる4つの参画方法
1. パブリックコメントを出す
- パブリックコメントを出すという参画方法は、国レベルのパブリックコメントだけでなく、市区町村といった各自治体からもパブリックコメントの募集は数多くある。募集されているすべての問題に意見を出すということは難しいものの、当事者として伝えられることはあるので、ぜひ実施してほしい。
- パブリックコメントを作成する際には、①当事者であること、②課題意識、③望んでいることの3点を抑えることが大切である。長期的な視点を持つことも必要であり、直近のことは変えられなくても次に同じようなことが起きたときに改善してほしいという意思を表明することが大切である。
- パブリックコメントへの回答は広報担当者が行うことが多いが、パブリックコメントは必ず検討会や報告書に出てくるので、パブリックコメントと同じトピックで検索をかけ、議論をフォローアップしていくとよい。
- また、「行政は動いてくれない」という声を時折耳にするが、それは行政が市民らの抱える課題を知らない、わかってないということがあると考えている。行政は市民のために動きたいという目的を持っているため、そこに橋をかけられるようにするためにパブリックコメントを出すことが大切である。
2. 団体を作る
- 団体の作り方については今回の主題ではないため割愛するが、自分自身の思いや考えを外に発信する、仲間を作るということは大切である。仲間を見つけるためには関連学会や子育てメッセ等の場を活用してきた。
3. 検討会等を傍聴する
- 検討会等の傍聴に際して、これまでは非常に煩雑な手続きが必要であったが、今はYouTubeで見ることができる。委員にとっても見られているという意識が醸成されるという効果もある。
4. 委員として検討会等に出席する
- 国や都道府県、学会等において、様々な検討会、委員会があるので、そこに患者・当事者委員として出席し、意見を述べ参画する方法もある。詳細についてはこれまでの活動を踏まえ次に述べる。
■当事者委員としてのこれまでの活動
これまで務めてきた委員会
- 国:厚生労働省、内閣府、文部科学省
- 都道府県:東京都、東京消防庁
- 学会:日本産婦人科学会、日本小児科医会、日本救急医学会
扱ってきたトピックス
- 小児医療、救急医療、消防、周産期医療、AMR、上手な医療のかかり方、予防接種、医療制度、医薬品医療機器、小児の医療費、看護教育、無痛分娩等
委員になった経緯
- 問題意識を持った当初、個人の問題ではなく社会の問題であると考え、特に活動もしていない状態で厚生労働省と東京都の窓口に赴いた。しかし「管轄が違う」「頑張ってください」と門前払いにあったことから、実績が必要であると実感し、自身の団体で講座を開催するに至った。
- 検討会の傍聴をした際に、学会の委員が「小児救急を守る活動があればいいのに」という発言があった。そこで連絡を取ったところから、多くの行政関係者を含むつながりを得る機会となった。その結果、個人では窓口で返されてしまったような施設でも、20人以上が対応する結果となり、実績と人脈の必要性を感じた。
実際の経験
- 懇談会等では手を挙げても指されないことがあった。そのため、ある会の終了後に無理やりマイクを取って「次の会では私に時間をください」と宣言した。そこで早産が引き起こす問題についてプレゼンテーションを行ったが、「国の懇談会なのだから誰でも知ってるだろう」と思っていたものの、多くの参加者から「現状を知らなかった」という感想を聞いた。この経験から、懇談会に出席している方々は現場から離れている方も多い、患者や現場の声が届きにくい状況であり、だからこそ現場の声を伝える自身の存在意義があると考えた。
- 一方で、そうした活動の中でも「素人だから」と心無い扱いを受けることもあった。今とは全く違う状況である。
■当事者委員としての活動で心がけていること/感じたこと
伝えることをあきらめない
- 意見を確実に伝えるためには自分の意見を全員に伝えることを目的としないことが重要である。一人でも理解者がいればそれを大切にし、繰り返しアプローチする。
個人としての体験を一般化し建設的な意見交換を行う
- 検討会や委員会はあくまで「意見交換の場」である。個人の体験は大切であるが、想いが強いときほど繰り返し書き出してそれを一般化することが大切である。「この方向性であっているのか、多くの当事者が望んでいるか」ということを自問する必要がある。
- 検討会で「こうしたことに困っています」と要望をする当事者を時折見かけるが、こうした場では発展が見込めないことが多いと考えている。どのような仕組みを使って解決策を提示していくのかが大切である。一歩踏み出し、相手の話を聞いて、想像して、対話をする。社会課題はたくさんあるが、委員と行政の双方が心を開いて正直にならないと話が進まない。
自分は当事者の代表ではないという意識を持ち、当事者の話を聞くことで疾患横断的に活動する
- 自分が当事者ではない検討会等にも呼ばれることはある。市民として全く関係のない問題はないというスタンスは持っているが、実際の意見を集約するために、当事者の意見を聞くということを最も重要視しており、実際にヒアリングを行っている。
- 問題点として、現在は個人的な人脈を活用してヒアリングを行っているが、個人の活動には限界がある。また、委員会の結果を追うことも一般人には難しいため、NCDアライアンス・ジャパンのような外部機関がそういった役割を担えるようになると良いと考えている。
「一般の人の目線」をなくさないようにする
- 建設的な意見交換を行おうとしても善意のすれ違いが生まれることがある。しかし逆説的ではあるが、だからこそ一般の患者委員が存在していると考えている。間違えることはたくさんあるが「一般の人が見たらそう見える」ということを伝え続けることが大切である。現在は、検討会前のレクリエーションで不明点を聞きすぎると、このような「一般の人の目線」がなくなってしまうと考え、十分前提が共有できている場合には聞かないようにする等、「一般の人の目線」をなくさないように気を付けている。
- 医療者より知らないことは「間違い」ではない。コミュニケーションをとろうとすることが大切である。実際の検討会の場で言えなければメールでも伝えることを試みるのも良いと考えている。
- 詳しくなればなるほど「同じ意見」になってしまう。詳しいことを否定しているわけではない。多様な医療者が参画していることと同じように、市民にも多様な人間が必要であると考えているため医療者のような知識や意見をすべての患者委員が出すことを目指す必要はないと考えている。委員の多様性が大切であり、市民の声を伝える人間が必要であると理解している。詳しくなる時間があるなら当事者の声を聴くということのほうが大切だと考えている。
建設的な意見交換と効果的な情報収集をする
- 行政を含めたステークホルダーそれぞれの働きを尊重し、否定しないということを心掛けている。主張したいことがある場合には相手の話を「2倍聞く」という意識を持つようにしている。そのうえで率直に建設的な意見を伝え、双方が市民であるという認識を基盤として、立場・背景の違いを理解する必要がある。
- 情報収集の際には医療機関やかかりつけ医等に協力してもらうことが効果的である。また、パブリックコメントを自分だけで解釈することは難しいが、輪が広がる中で関係者や行政の人に聞くことができるかもしれない。自分ですべてをやろうとしないことが大切である。
■開催概要
・スピーカー:阿真 京子(子どもと医療プロジェクト 代表)
・日時:2021年12月7日(火)18:30-19:45
・形式:Zoomウェビナー形式
・参加費:無料
・使用言語:日本語のみ
・定員:100名
・主催:特定非営利活動法人 日本医療政策機構(NCDアライアンス・ジャパン事務局)
・対象者
-政策形成の場に現在参加している方
-政策形成の場に今後参加したいと思っている方
-政策形成の場に声を届けたいがどうすればよいかわからない方
-疾患の有無にかかわらず、医療政策に興味をお持ちの方
■プログラム
18:30~18:35 開会挨拶
今村 優子(日本医療政策機構 マネージャー)
18:35~19:15 講演「当事者の声を政策に反映させるために」
阿真 京子(子どもと医療プロジェクト 代表)
19:15~19:40 質疑応答
19:40~19:45 閉会挨拶
乗竹 亮治(日本医療政策機構 理事/事務局長)
■スピーカープロフィール
阿真 京子(子どもと医療プロジェクト 代表/日本医療政策機構 フェロー)
1974年東京都生まれ。都内短期大学卒業後、日本語教師養成課程修了。マレーシア 国立サラワク大学にて日本語講師を務め、帰国後外務省・外郭団体である社団法人 日本外交協会にて国際交流・協力に携わる。その後、夫と飲食店を経営。2007年4月、保護者に向けた小児医療の知識の普及によって、小児医療の現状をより良くしたいと『知ろう!小児医療 守ろう!子ども達』の会を発足させ、2012年7月に一般社団法人知ろう小児医療守ろう子ども達の会となる。同会による講座は160回を数え、6000人以上の乳幼児の保護者へ知識の普及を行う。2018年からは企業でのセミナー、産婦人科の母親学級を実施(2020年4月末日同会解散)。東京立正短期大学 専攻科 幼児教育専攻(『医療と子育て』)非常勤講師。三児の母。
厚生労働省 上手な医療のかかり方を広めるための懇談会 構成員、厚生労働省 救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会 委員、総務省消防庁 救急業務のあり方に関する検討会 委員、東京消防庁 救急業務懇話会 委員、東京都 小児医療協議会 委員、内閣官房 薬剤耐性(AMR)対策推進国民啓発会議 委員、その他、多くの委員を歴任。
■NCD AllianceとNCDアライアンス・ジャパンについて
NCD Allianceとは、国際糖尿病連盟、国際対がん連合、世界心臓連盟、国際結核・肺疾患連合の4つの国際連盟によって2009年に発足しました。現在は、約2000の市民団体・学術集団が約170か国で展開するNCDs対策のための協働プラットフォームであり、「NCDsによって引き起こされる、予防可能な苦痛、障害、死をなくすこと」をミッションに活動しています。NCDアライアンス・ジャパンは、2013年よりNCD Allianceの日本窓口として、マルチステークホルダーがフラットに議論できる場を提供し、NCDs対策において市民社会が果たす役割の重要性を国内外に発信しています。
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