INTERVIEW

矢崎 義雄先生

日本心臓財団理事長

今後、増えることが予想されるNCDの対策を打つには、日本の医療システム全体のグランドデザインを描くと同時に、個々の地域の疾病のあり方、医療提供体制に応じた、ボトムアップのデザインとのすり合わせが重要です。
日本心臓財団の活動と今後の展望
1964年、循環器学会にて、ハーバード大学マサチューセッツ総合病院循環器科のPaul D. White先生が、日本も将来、食生活の変化などによって、循環器疾患が大きな課題となるのではないかと提言されました。(アメリカには心臓財団American Heart Association(AHA)があります。AHAは学会と財団の機能を兼ね備えた団体。)
日本心臓財団は、White先生の提言を受けて、経団連と日本循環器学会が協同で民間の寄付で成り立つ団体として1970年に設立され、独自に循環器疾患の究明、治療、予防開発のために、若手の研究者を助成する財団として、今日まで42年間活動しています。
設立以来、5億円の研究費助成を行う一方で、一切、公的な補助金などを受けないで今日まで実施してきました。治療開発や臨床疫学といった分野では、アウトカムを出しやすいので研究費も集めやすいのですが、予防啓発になると寄附をいただくのがなかなか難しいことが課題です。
財団は研究以外にも、禁煙、運動、肥満予防(Don't smoke, walk & walk, no fatという、3つの循環器疾患予防のための啓発活動を続けており、WHFの世界ハートの日や、発展途上国への支援なども行っています。しかしこれらの活動は治療開発や臨床疫学研究に比べて目に見えた成果を出すことは難しく、今後の予防の推進をどう進めていくかが、理事長になった時からの課題です。
現在は、一般の方から寄付を募るためのメッセージビデオを作り、医師会などに配布しながら、心臓突然死の予防と同時に、心臓財団の認知度を上げるための活動をしています。
心臓の突然死は、お年寄りだけでなく、スポーツ選手や学校の子どもたちにも起こっています。AEDは普及しましたが、それが使えないようでは困りますね。AEDは怖くて使えない、とおっしゃる方も多いです。間違えて電気ショックを与えてしまったらどうしよう、と怖いのですね。しかし、AEDは、自動的に心電図から判断してくれるので安心して使えますと説明しています。交通事故が年間4900人に対して、何の前触れもなく突然死を起こす人は年間6万人です。交通事故死に比べて圧倒的な頻度です。心臓マッサージが子供から大人までできるように、低コストで、胸骨の下を適切な強さで押すと音が出る人形のモデルを作り、小学校や会社で普及活動をしています。今後は、特に学校での教育に力をいれたいと考えていますが、学校教育の時間がタイトなので工夫がいると考えています。
他の関連団体との協働
生活習慣病の予防などでは、日本循環器学会や循環器管理研究協議会と連携しています。8月10日に健康ハートの日があり、無料検診を行っていますが、その費用は寄附金などで支援して頂けないので、すべて循環器学会の先生方のボランティアで成り立っています。今後は財団としての活動を幅広くやって寄附を募っていきたいと考えています。
日本におけるNCDという枠組みでの政策提言
国として、病院の病床数や機能区分のあり方をどうするか、といった日本全体のグラウンドデザインを描いていこうという考え方については賛成です。
ただ、医 療というのは地域で生まれて、地域ではぐくむものですから、全国一様にはならないのです。もっといえば地域によっても違うのです。国のデザインをそのまま トップダウンで実施することは無理です。地域ごとの疾病のありかたや、医療の提供体制に応じたボトムアップのデザインとのすり合わせが必要です。地域医療計画では、NCD5事業として取り組み、うまくいっている部分もあるのです。地域の拠点となる病院の認定をして財政的な支援をした、ということが医療の均てん化に資したと思います。あとは地域の格差、特性を国の医療計画にいかに織り込んでいくかということが重要でしょう。
国公立病院、と一言でまとめて も、国立病院と公立病院ではまったく異なります。公立病院は地域医療計画の中心的な役割を担うことになっていますが、国立病院と比べて統制がとれていませ ん。国立病院は厚生省から独立した形ですが、公立病院で最終的な決定権をもつのは自治体で、病院長のガバナンスの確立は難しいのではないでしょう か。医療の現場を知らないで企画運営が行われる可能性が大きく、自治体とのコミュニケーションを保つのが難しいのではと危惧されます。全国で、地域医療計画 の中心に公立病院がなれればと願っております。システムとして医療提供体制をどう組み立てるか、という部分で公立病院の重要性をあらゆる方面の方々 にもっと理解していただくことが必要ですね。

人材育成でいうと、国立病院機構では日本版NP(nurse practitioner: 高度実践看護師 )を育ててきて、今年までに約20人を育成しましたが、とても評判がよいのです。医師や患者さんからももちろんですし、看護師さんからも評判がいい。こう いう人材をどんどん育てて、国民にも認められていけば、看護職が医療行為を行うための法的は整備にも結びつくでしょう。患者さんが喜ぶシステムを作ってい かなければならないと思います。私はまず、国立病院機構の中で日本版のNPを立ち上げようと考えています。そしてその評価を確実にするつもりです。大学院 を出ただけではなくて、常にon-the-jobトレーニングをして、技術を磨いていくことですね。ある程度の数が生まれて、評価されるようになれば、お のずとシステムになっていくでしょう。今は少し我慢が必要ですね。

国内でNCD のネットワークを作ることの意義
望ましいことだと思っています。財団としても、できる範囲で応援できればと思います。

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