INTERVIEW

永井良三先生

日本循環器学会代表理事

NCDの4疾病に共通するリスクファクターが多いため、横断的な慢性疾患対策の必要は大いにあります。社会としてどのようなNCD対策をとるか、NCDに関するデータを収集し、医療分野の知識を創造することが重要です。
データに基づいたNCD対策の必要性
一般社会では、医学が進歩すれば、数式を解くように病気がわかると考えられているように思います。しかしNCDはY=aX+bのような単純な数式では説明できません。NCDの医療は確率論です。たとえばコレステロールが高くて心臓発作が起こる、というのはよく知られています。しかし通常より少し高いくらいで、かつ既往のない方が心臓発作を起こすのは、多くても年間に1000人中10人程度、コレステロールを下げる治療をすると1000人中7人になるような話です。メリットを受けるのは1000人中3人であり、低い確率です。そして誰がその7人になり、誰が3人になるのかは全くわかりません。医療者側にも実感はなく、統計的に推測しながら医療を行わざるを得ない状況です。

NCDの罹患率は対策を決める上で重要です。方針を判断するためには日本人が数字に強くなる必要があります。1000人中10人に発作が起こる、薬物で治療しても3人しか減らない。しかしこれが20年間続けば、1000人中60人が助かることになります。1000万人では60万人を助けることがでます。1億人なら600万人です。それを社会として受容するかどうかを議論しなければなりません。これらはNCDの非常に大きなテーマですが、日本ではそうした議論が必ずしも行われておらず、そもそも大きなデータセットがありません
日本のアカデミアでは、こうした研究が必ずしも高く評価されてきませんでした。因果関係が分からないものは科学として価値が低いと考えられる傾向があったためです。しかし現実世界を見ずに、理屈だけで進めてしまうと失敗する原因となります。頭で考えた因果関係は誤る可能性があるからです。したがって長期的に大規模なデータを集めることが重要になります。しかし、なかなか研究支援を得られないのです。学者だけでなく、行政官も因果関係にこだわる傾向があります。
慢性疾患における病態の進行に応じたケア
慢性疾患は長い時間で形成される病態ですから、病態の進行は発症の因果とは異なります。平衡状態のセットポイントが変われば、関与する因子も増えるのです。最初の原因を絶つという発想で対策を考えることも重要ですが、それだけではうまくいきません。例えば、2型糖尿病の原因は運動不足と食事ですが、「運動不足と食事に気をつけましょう」と呼びかけるだけでは合併症を持っている方への対策が行き届かなくなります。2型糖尿病で運動と食事に気をつけるのは当然としても、かに臓器合併症へ進行させないか、人工透析にならないようにするか、あるいは循環器疾患や脳卒中を起こさないようにするか、という点にも多くの注意が払われるべきです。一次予防の観点だけではこうした対策はうまくいきません。慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者についてもタバコをやめましょうと言うだけでなく、既にある程度COPDが進行した人たちのケアをどうするか、QOLをどのように高めるか、といったことについても取り組まなければなりません。慢性疾患のケアはQOLや寿命に大きな影響があるのです。

また、医療費の問題もあります。NCD全体として非常に多くの医療費を必要としているということにも目を向ける必要があります。
求められる他の団体との連携
関係省庁と団体との連携は個人としては試みていますが、学会としては更なる努力が必要、と感じています。画期的な治療法の開発だけでなく、慢性心不全を含めたNCD対策がこれから重要です。外国の取組みにも関心があり、心臓病とは何か、どのような対策をすべきか、などの説明について、一般向けにわかりやすく、効果的な方法を学ぶ必要があるでしょう。

政策提言については、今までは、心不全や循環器学会で個別に取組んでいるので、これからは共同で取組む動きになるでしょう。

循環器疾患はNCDの中でも大変重要です。心不全には、急性心不全と慢性心不全があり、慢性心不全は長期にわたり、さまざまな治療法を必要とするために高額の医療費が必要になります。高齢者では慢性心不全は珍しくありません。
健康増進法に基づき策定された、国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針である「健康日本21」の中にも高血圧と虚血性心疾患しか入っておらず、慢性心不全については、行動目標ではなく、参考資料の中に含まれています。本来は、慢性心不全も行動目標の中に入れるべきと考えますが、実態を明確にすることが重要です。慢性心不全をしっかりと位置づけるような活動を、関係団体とともに循環器学会としても取り組む必要があると考えます。
疾病横断型の対策とNCDアライアンスへの期待
横断的な慢性疾患対策の必要性は大いにあるでしょう。個々の疾病に多少の違いはありますが、糖尿病、慢性呼吸器疾患、循環器疾患などには、共通のリスクファクターがいろいろとあります。メタボリックシンドロームからがんになるケースもあるため、疾病横断的に対応する必要があります

NCDアライアンスが生まれるにあたり、
  1. データをもとに、どのように日本の医療分野の知識を創造していくか
  2. いかに社会と協働して医療情報を使えるようにするか
  3. そのために医療情報とIT技術の連携をどのように発達させるか
の3点に期待しています。

ページトップへ

  • 伊藤弘人先生
  • がん、循環器疾患、糖尿病、COPD(慢性閉塞性肺疾患)といったNCDは、喫煙、不健康な食生活、運動不足、過度の飲酒といった生活習慣や治療へのアドヒアランス(患者が積極的に治療方針の決定に参画し、その決...

  • 川添 高志様
  • 起業準備を進めながら糖尿病内科病棟で務めていたところ、糖尿病患者さんのほとんどが、もっと早く病気が見つかっていれば重症にならずに済んだ方であることに気が付きました。早期発見ができなかった多くの理由が、...

  • 山口武典先生
  • 日本脳卒中協会が最も力を入れている脳卒中対策基本対策法の法制化に関しては、神経学会、脳神経外科学会、救急医学会、リハビリテーション医学会、理学療法士協会、作業療法士協会、言語聴覚士協会、救急救命士協会...

  • 矢崎 義雄先生
  • 1964年、循環器学会にて、ハーバード大学マサチューセッツ総合病院循環器科のPaul D. White先生が、日本も将来、食生活の変化などによって、循環器疾患が大きな課題となるのではないかと提言されま...

  • 松森 昭先生
  • 世界心臓連合は、心臓病や脳卒中で苦しむ人を減らし、全世界の人がより長く、より良い人生を送ることを目的とし、行政、医療従事者、患者団体や個人と共に活動をしています。世界心臓連合は、アジア太平洋、ヨーロッ...

  • 鄭忠和先生
  • 日本心臓病学会の活動は、 ①臨床心臓病学の討議研究 ②心臓病の診断・治療 ③臨床心臓病の診療と研究を目指す若手医師の教育の大きく3つがあります。心臓病学会は、心臓疾患の最先端の診断・治療の情報を発信し...

  • 清野裕先生
  • 2006年12月に国連決議でNCD関連疾患では初めてとなる、糖尿病撲滅のための決議が行われました。疾患としてはエイズに続いて2番目となります。その後、国連や空を表す「ブルー」と、団結を表す「輪」を使用...

  • 門脇孝先生
  • 現在、我が国ではNCDが非常に大きな問題となっています。これは超高齢化社会を歩んでいる我が国にとって大きな問題です。循環器疾患、がん、慢性呼吸器疾患に加えて糖尿病が我が国のNCD対策の中で取り上げられ...

  • 小川 彰先生
  • 3大脳卒中と言い、脳卒中には、脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血があります。クモ膜下出血は、発症前は全く症状がなく、突然出血を起こして、がーんと後ろから叩かれた痛みがあります。小さな発作の後に大きな発作があ...