INTERVIEW

鄭忠和先生

日本心臓病学会 理事長

高齢になると、一人の患者さんが一つの病気をもつわけではない。医療政策を見直すうえで、包括的、全人的医療がキーワードです。そのために、疾病横断型の慢性疾患対策に協力したいと考えます。
日本心臓病学会の活動
日本心臓病学会の活動は、
 ①臨床心臓病学の討議研究
 ②心臓病の診断・治療
 ③臨床心臓病の診療と研究を目指す若手医師の教育
の大きく3つがあります。
心臓病学会は、心臓疾患の最先端の診断・治療の情報を発信し、それを医療の中で役立てていくのが、学会としての目的です。現在、心臓病学会の会員は7000名を超えています。
他の疾患の学会、省庁や患者団体などのステークホルダーとの連携
連携を重要視しており、日本循環器学会とは二人三脚で歩調を合わせ、活動を進めています。それ以外にも心臓、循環器に関連した学会―虚血性のインターベンション、心不全、心臓リハビリテーション、不整脈の学会等があり、そのような国内学会との交流も行っています。
日本では日本循環器学会と心臓病学会が二大学会であり、米国には米国心臓協会と米国心臓病学会があります。日本心臓病学会は米国の心臓病学会と提携し、日本や米国での学会開催時に、共同シンポジウム等を行っています。さらに、心臓病学会としては欧州心臓病学会、韓国の循環器学会、中国、台湾など、国内だけではなく、海外の循環器領域の学会と提携し、交流や新しい知見の共有を行っています。

また、心臓病は腎臓、肺などの疾患とも関わるので、これまで以上に分野横断的な交流に取り組んでいきたいと考えています。
また、学会の総会を年に1回開催し、心臓移植のような重症心不全対策や、高騰する医療費のなどの多様な医療課題に対し、厚労省の立場からご意見をいただく機会を設けています。例えば、今、特に問題になっているのは、仕事がハードである心臓領域を専門に選ぶ若手の医師が減少傾向にあることです。各領域を担う医療従事者を育成するために、どのようにすべきか。過疎化や地方病院での医師不足等が課題となる中、循環器の医師不足が大きな課題となっています。解決に向けて、次なる医療政策や医師確保政策が重要であり、学会の中でもこれまで以上に厚生労働省と共に検討していくことが重要です。
今後は啓発活動にも注力していきたいです。循環器疾患は、患者さんの死亡原因としては最も多いのに対し、一般の人々の理解をサポートする活動が少なかったと思います。学会の活動として、一般の人々との情報交換や、理解を深めていくような交流に、より一層の取組みが必要だと感じています。また、学会は、研究成果の発表の場としてだけでなく、医療政策をふまえたディスカッションも行っていきたいと思います。
循環器領域の政策課題のプライオリティ
後、更なる取組みが求められる課題の1つは心不全だと考えます。専門的な医療技術の発展により、命を取り留めることができても、心臓の障害が残るケースが増加し、心不全の患者は益々増えていくでしょう。心不全は、米国の医療費高騰の主要要因であるのが現状。単に命を救命するだけでなく、心不全と診断された人の自立やQOLの向上が重要です。
今後の学会の活動展開 ~医療政策を再考すべきとき
心不全に至る原因―生活習慣病、高血圧、糖尿病などをいかにきちんとコントロールするかが課題です。心不全の初期、症状の軽い段階では、運動や適切な治療薬の服用が大事です。
しかし、中等症、重症になってしまうと、運動は困難になります。重症化すると、内科的に侵襲的な治療(非薬物療法)を受け、さらに外科的治療に進行していきます。これまで、日本では救命に力点が置かれてきました。日本は世界最長寿国ですが、高齢者が本当に「長生きて良かった」と思える社会であるか、が重要なのです。医療分野で臓器別にスペシャリストを養成することにより、確かに医学的技術は進歩しました。
しかし、高齢になると一人の患者さんが1つの病気をもつわけではありません。これからは、もっと包括的に患者さん全体を診る医療が必要です。この点を、医療政策の中で見直す時期にあると思います。心臓は治療できても、患者さんがその後の人生を元気に生きていけるかといえば、なかなかそのような状況ではありません。少子高齢時代の中で、どこに力点を置いていかなければいけないか。家族から十分なケアを受けることはなかなか難しい時代になると、社会の力で支えていかなければなりません。
その時に大事なことは、高齢者ができる限り自立した生活を送れるように、運動や入浴を推奨し、健康寿命をのばせるような政策を実行することです。脳卒中の合併症、骨関節症、心不全等で運動が困難な人に対し、適切な温泉・銭湯・サウナ・入浴を利用するなど、包括的、全人的医療を行うことが、今後の医療政策を考える際に重要となるでしょう。
疾病横断型、マルチステークホルダーのコミュニケーションは大変重要であり、それを具体的な形で進めていくことが求められます。今は各疾病の学会が細分化されていますが、これからは包括的、全人的医療がキーワードになります。そのため、疾病横断型の慢性疾患対策に全面的に賛同し、協力したいと思います。

自分の人生を死ぬ時まで良かった、満足だ、と思える社会になってほしいです。WHOが健康寿命を2000年に発表し、日本人の健康寿命の平均は現在75歳、平均寿命は83歳なので、8年間は他者の介護を受けて生きているのが現状です。今の長寿社会をどのようにしていくか。目標は長寿社会を福寿社会にすることです。近い将来、和温療法が福寿社会の実現に貢献することを期待します。

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