INTERVIEW

小川 彰先生

日本脳卒中協会理事長

疾病横断型の慢性疾患対策を考えるうえで、まず、日本の国の医療のありようを再考すべきです。医療を取り巻く多様なステークホルダーが、どのような医療供給体制が必要か、グランドデザインから始めなければなりません。
日本脳卒中協会の取組み
3大脳卒中と言い、脳卒中には、脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血があります。クモ膜下出血は、発症前は全く症状がなく、突然出血を起こして、がーんと後ろから叩かれた痛みがあります。小さな発作の後に大きな発作があります。そのような症状を、患者さんあるいは家族がよく認識している必要があるため、脳卒中学会、脳卒中協会では市民に向けての啓発活動等、全国で様々な取組みをしています。
他団体との連携による脳卒中の啓蒙活動
社会貢献、社会活動は脳卒中協会が行い、学会、学術的な活動は脳卒中学会が行っています。協会、学会は社会に対して発信することを重視し、市民への啓発活動を含めて行っています。発症者数が多い脳梗塞には特に注力しています。
脳梗塞の前触れは一過性脳虚血性発作であり、一過性脳虚血性発作と狭心症は同じです。心臓の一過性虚血性発作が狭心症といわれています。脳の一過性虚血発作が脳虚血発作である、一過性脳虚血発作(TIA)。
狭心症の場合には、今にも自分の心臓が止まりそう、苦しい、痛いと重症感があり、狭心症になって病院に行かない患者さんはいません。狭心症の場合、心臓の筋肉が一部壊れても、心臓全体としてのポンプ機能が残れば、今までと同様に生活できます。一方、脳は、各部分によっていろいろな機能―言葉を話す、物を見る、考える、手足を動かすなどの様々な機能があります。脳梗塞の前触れは一過性脳虚血発作ですが、一過性脳虚血発作には重症感がないのため、前触れの段階で見逃されることが多いのです。前触れの段階で血管がつまりぎみであるという診断がされ、必要な一次予防あるいは二次予防の薬の投与、手術が行われることは少ないです。その結果、大きな発作を起こして、言葉が話せない、あるいは手足が動かなくなった段階で初めて治療が始まることが大きな問題です。
そこで、脳卒中がどのような病気なのかということを家族も含めて、一人一人が知ることが重要です。市民向けの啓発キャンペーンを行っても、集まってくださる聴衆の方々は、重症な脳卒中を経験された方々やそのご家族など、今健康な方の来訪は少ないです。地道にマスコミ、新聞、テレビも含めて、脳卒中のキャンペーンを組み、多様な企業の協力を得てキャンペーンを行ったり、市民公開講座を行ったり、あるいはテレビ番組として取り上げてもらったり、様々な取り組みをしていますが、脳卒中予備軍の方への啓発は容易ではありません
求められる疾病横断型の対策、そのためのプラットフォーム
今後、日本でも、NCDという枠組みでの政策提言が進むと考えます。厚生労働省も5疾病5事業に取り組むようになりました。昔から、NCDのリスクファクターは、高血圧だけではなく、糖尿病、高脂血症、軽度の肥満ということがわかっていました
今はメタボリックシンドロームという言葉で、疾患概念として確立しています。個々のリスクファクターが合わさると重篤な脳卒中になることに関して、様々な論文が出されてきて、ようやく社会的な認知をされるようになり、メタボリックシンドロームという言葉が国民の間にも定着するようになってきました。最近は全身の動脈硬化性疾患(polyvaslucular disease)という概念が広がり、脳卒中、心疾患、末梢血管疾患等は、同じ血管病の中の一形態であり、全身病で全て連携していることが明らかになっています。
共通のリスクファクターをもつNCDに対し、疾病横断型で対策を行うことが最も大事なことなのです。全てのリスクファクターが本人にとって苦痛をともなうわけではありませんが、これらを治療行動、一次予防に結びつけていく必要があります。病気になった方の対策をしてもある意味でいえば手遅れ。それよりもその前に普通に生活をしている段階で対策をとることが大事で、健診、そして生活習慣から一次予防をすることが何より大きな第一歩です。二次予防では、一過性脳虚血発作―小さな発作が起こった時に、いかにして大きな発作にならないようにとめるか、ということしかできないのですから。
将来を見据えた医療のグランドデザインの必要性
疾病横断型のプラットフォーム構築に向けたディスカッションから始めなければなりません。学会メンバー、大病院・中小病院に勤務している医師、開業している医師の立場は異なります。日本の将来にどういう医療供給体制が必要か、大きなグランドデザインから始める必要があります
日本は戦後、国民皆保険制度という世界に誇れる制度を作りました。当時は聴診器、薬、メスくらいしか必要なかったですが、今や高額な機械に囲まれていなければ医療が提供できなくなりました。
また国民が医療を空気だと思ってしまっています。日本の国の医療のありようが議論されていないのです。例えば、北欧のように高負担だが高福祉という社会を目指すのか、アメリカのように低負担だけども、良い医療を受けるなら個人で保険に入って自分の身を自分で守る社会を目指すのか。急性期、慢性期からリハビリに至るまでの全体のスキームがなく、様々なところで矛盾がでています。具体的には、日本人の中で入院需要が高い脳卒中について、一次予防から国が政策を展開していくことが欠かせず、そのためには脳卒中対策基本法の制定が必要です。
また、病病連携や中小病院との連携整備やICTを使って遠隔医療等が医療システムとしての課題です。縦割り行政、文部科学省、厚生労働省、総務省、それぞれの認識の違いを乗り越えていくことが重要です。
国内でも「NCDアライアンス」という形でプラットフォームを作るのであれば、喜んで協力いたします

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