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【調査報告】「慢性閉塞性肺疾患(COPD)の社会経済的負担に関する調査」

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2014-01-16




慢性閉塞性肺疾患 (Chronic Obstructive Pulmonary Disease (COPD)) は国内外において疾病負担が大きい疾患として位置づけられ、有病者数、医療費ともに今後ますます増加すると見込まれています。また、職場の労働者にとって良好な労働生産性を保つことが高い心身の健康と関連し、かつ組織の利益につながることが知られる一方、COPDの罹患によって生産性低下がもたらされると考えられます。

しかしながらCOPD発症の程度により、Quality of Life (QOL) や生産性損失がどのように異なるか、また我が国においてそれらによりどの程度金銭的負担が起きうるのかは明らかになっていません。そこで今回、1) COPD患者における生産性損失の実態 (仕事への影響、日常生活への影響の双方を含む)、2) COPD患者のQOLへの影響、そして3) 診断されていない潜在的COPD患者の実態把握、を明らかにすることを目的に調査を実施しました。

注目すべき調査結果


1、スクリーニング尺度により分類されたCOPD非罹患者、潜在的COPD患者、COPD患者それぞれについて、段階的にQOLが低下する可能性がある 
  • QOLについては、EQ-5D-3L (EuroQoL 5-dimension questionnaire, 3 level) およびEQ-5D-5L (EuroQoL 5-dimension questionnaire, 5 level) の2つの質問票を用いた。3Lは各項目3段階、5Lはより細かく5段階で評価する。EQ-5D-3Lはすでに日本において換算表 (調査票の回答結果を、0=死亡、1=完全に健康の1点満点のQOLスコアに換算する計算式) が開発済みであるが 、EQ-5D-5Lについては現在開発中であり、2014年度に公開予定である。ただし、EuroQOL本部において、3Lと5Lの同時測定によって計算 された暫定版の換算表が提示されている。本調査ではCOPD患者へのQOLの影響をより詳細に検討するため、3Lと5Lの両尺度を用いた。
  • EQ- 5Dで測定した各群のQOLスコアを比較したところ、EQ-5D-3LではCOPD患者が0.785、健常者 (潜在的COPD患者, COPD非罹患者) は0.855および0.875となり、健常者に比べてCOPD患者のQOLが有意に低かった (p < 0.01)。EQ-5D-5Lでは、患者が0.819, 健常者 (潜在的COPD患者、COPD非罹患者)は0.890および0.909であり、3Lと同様に健常者に比べてCOPD患者のQOLが有意に低かった (p < 0.01)。なお、年齢や性別を共変量に加えた重回帰分析によっても有意差は変わらなかった。
 2、健常者と比較して、COPD患者の方が、週労働損失時間が有意に長い
  • 労働生産性および労働以外の活動損失の評価にはWPAI-GH (Work Productivity and Activity Impairment Questionnaire) を用いた。潜在的COPD患者およびCOPD非罹患者を合わせて健常者群とし、COPD患者群と比較すると、7日間での総労働損失時間は 15.8vs19.9 (時間) と、COPD患者群の方が4.1時間有意に長かった (p = 0.04)。
  • わが国の賃金に関する統計 として、最も規模の大きい厚生労働省賃金構造基本統計調査から算出した平均時給2,219円を算入すると、COPDによる超過労働損失は年間1人あたり 2,219(円)×4.1(時間)×52(週)=47.1万円と推計された。また、COPD患者の自己負担割合と、月あたりの自己負担額から割り返した医 療費負担額は、平均59,976円 (中央値26,667円) であった。
3、COPD患者の費用負担は、医療費や生産性損失を勘案すると、少なく見積もっても約2,000億円にのぼる
  • COPDで受療中の患者数は約22万人、潜在的な患者数は約530万人とされる 。一方で今回の調査結果から、COPDに起因する1人当たりの生産性損失は年間47万円、医療費支出は月間で6万円、年間では72万円と推計された。つま り1人当たりのコストの合計金額は年間で119万円となる。調査対象集団のCOPD患者233人のうちで、就業している患者は112人 (48.0%) であった。この就業割合と、控えめな推計として現在受療中の患者数22万人を採用した場合でも、患者全体での費用負担は医療費支出で72万円× 22万 = 1,584億円、生産性損失は47万円×48.0%×22万=496億円、あわせて2,080億円にのぼる。
  • この金額には、就業者以外の日常生活(家事労働など)への影響は組み込まれておらず、また潜在的なCOPD患者の生産性損失も含めていない。これらを組み込んだ場合は、総コストはさらに増大すると考えられる。

調査結果から浮かび上がる今後の政策の方向性

1、COPD早期発見・治療体制の確立
  • 本調査ではスクリーニング尺度により分類されたCOPD非罹患者、潜在的COPD患者、COPD患者それぞれについて、段階的にQOLが低下する可能性が 明らかになったことを踏まえると、COPD疑いのある者の早期発見が必要だろう。具体的には問診票や簡易スパイロメータによるスクリーニングが有効とされ ている。しかし、検診の必須項目ではない等、活用の場が限定的である。今後は早期発見体制の確立により、有効とされるスクリーニングが広く活用されること が望まれる。
2、適切な治療やケア提供体制を可能にする医療専門職育成の推進
  • COPDは進行性であり、病状に合わせ た適切な治療やケア提供体制を整備する上で、医療専門職による介入が必須である。
  • しかし、国内の呼吸器専門医数は循環器や消化器、神経内科領域と比べても 少なく、2013年11月現在登録の認定看護師12,534名の中で、慢性呼吸器疾患看護分野の者は115名と21領域で最も低い。今後増加するCOPD に対するケア提供体制を踏まえると、医療専門職育成の更なる推進が肝要であろう。
3、関連ステークホルダーによる連携体制の促進
  • 先述の通り医療専門職数が充足しているとは言い難く、地域による提供体制格差も懸念される。
  • 糖尿病については、学会、医師会などで糖尿病対策推進会議をつ くり、専門医でない医師への啓発と診療の標準化を地域で連携して行っているが、COPDにおいても近年4職能団体・学会により「日本COPD対策推進会 議」が設立される等の動きが見られる。
  • これらのような関連ステークホルダーの活動の連携促進を通じ、全国的に地域の実情に応じた連携体制が取れるような仕 組みを構築することが望まれる。
4、国民全体への認知啓発活動の推進
  • 健康日本21(第2次)において、「COPD」という言葉の認知度を  25% (平成 23 年)から80% (平成 34 年度)に向上させるという方針が打ち出された。言葉は多くの人々に認知されてはいないが、今後の早期発見につなげていくために、広く認知啓発していく必要 があるだろう。医療従事者をはじめとする、健康に関わる関係者には、「COPD」という言葉を正しく理解してもらう必要がある。

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COPD Report

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